ひょうたんに愛を試されるとき
by 丸黄うりほ
「あなたは、どのくらいひょうたんを愛しているのだろう?」「あなたのひょうたん愛は本物だろうか? 」
ツンデレひょうたんが、こんなふうに人を試すとき。
「あなたが、ひょうたんの素晴らしさをいちばん感じるのはどこだろう。実の形?それとも花の香り?くるくる巻きヒゲ?そう、全部正解。私は全部が最高なのだよ。でも、真の愛を感じている人ならこう言うはずだ、水漬けの臭いがいちばん素晴らしいと。えっ?臭いのは愛せない?そう……。それなら、あなたのひょうたん愛はニセモノだということだ」
そうなのです、ひょうたん愛が試されるとき。それは、水漬けひょうたんのフタを開ける瞬間……。
どんな臭いなのかというと、わりと近いのはドブでしょうか。腐った野菜の臭いにイオウとイカっぽい生臭さをブレンド。トップノートは夜露に濡れるゴミ箱、古きよき御手洗がふんわりと香るミドル。そしてラストには洗っていない天使の足のエピファニーが訪れる魅惑の香りなのです。
この臭いのことを、かつて「でれろん暮らし」の奥田亮さんは「瓢道の試練の大きな山場」だと表現されました。まさに、この山場を越えられるかどうかが、心底からひょうたんを愛せるかどうかの分かれ道。
暮れも押し迫った30日に、その日はやってきました。12月中旬に収穫し、水漬けを開始したひょうたん「ティトゥス」の11個の実。フタを開けると、恍惚の香りが、容器をおいている風呂場はもちろん、私の住居全体にたちこめました。
よーし。この臭いなら、しっかりと腐敗が進んでいるはずです。
私はひょうたんを水から一つ一つ取り出して、口部を下にして振りました。タネと一緒に、どろどろに溶けた中身がドクンドクンと出てきます。表皮もぺろんと剥けて、表面はぬるぬる。中身を振り出す腕は疲れてくるし……。なんというか、エロスとタナトス。まさに愛が試されている感じであります。
1時間ほどでどろどろはだいたい出ましたが、臭いの強さとタネの残り方から、きれいな水に入れ替えてもう一度漬ける必要があると判断しました。
それから4日。年が明けて2日目に、私は2回目のひょうたん洗いをしました。今度の水はわりあい澄んでいて、前よりずっと臭いも薄い。しかし、これで終わりにして干すにはちょっとまだ臭いような気も……。
というわけで、私は再びひょうたんを容器に戻し、新しい水を注ぎ入れて、もう少し様子をみることにしました。
(428日目∞ 1月8日)
※次回429日目は奥田亮「でれろん暮らし」、1月11日(月・祝)にアップ。
430日目は丸黄うりほ「ひょうたん日記」、1月12日(火)にアップします。