「ひょうたんの精」–ウリキンウワバは呪いの言葉!

by 丸黄うりほ

▲今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』(角川書店)。表題作ほか全6篇を所収。「ひょうたんの精」はそのうちの1篇。角川書店はこちら

 

ひょうたんが登場したり重要モチーフだったりする小説は世の中にまあまああって、この「ひょうたん日記」でもちょっとずつ紹介したいなと思っているのですが、きょうはそのうちの一つ「ひょうたんの精」という作品について書いてみようと思います。

「ひょうたんの精」の作者は、『むらさきのスカートの女』で第161回芥川賞を受賞した今村夏子さん。私は今村さんのデビュー作『こちらあみ子』を読んでびっくりし、その後もすごく熱心というほどではないけど、代表作はだいたい読んできました。でも、「ひょうたんの精」が収められた『父と私の桜尾通り商店街』(角川書店)は出ていることに気づいてなくて読んでなかったのです。

昨年出版されたこの短編集に「ひょうたんの精」という作品が収められていることを教えてくれたのは、ヒョウタン総合研究所所員のふじっこさんでした。ふじっこさんは今村夏子さんの大ファンです。それは読まねばなるまい!と私も最近ようやく本を買い求めました。感想は……。

すばらしい。なんといっても「ウリキンウワバ」が呪いの言葉として採用されているところに感銘を受けました!! 昨日の日記でも書きましたが、現実に、ひょうたんの葉や実を食い荒らす害虫のウリキンウワバに手を焼いている渦中なだけに。

お話は、だいたいこんな感じ。かつてはスタイルもよく、チアリーダーとして誰よりも高くジャンプできた「なるみ先輩」が、マネージャーである語り手の「わたし」に秘密を明かすなかで、ひょうたんとの出会いと関わりを語っていきます。ちょっとしたミスによってひょうたんに守られる側から吸い込まれる側に反転した先輩。その先輩を助けるために、ひょうたんの弱点として「わたし」が検索によってみつけたのが「ウリキンウワバ」でした。その言葉をとなえることによって、先輩は……。

全部を書いてしまうとネタバレになってしまうので、あらすじはこのくらいに留めておきますね。

今村さんの小説らしく、真面目すぎ、一途すぎてはずされていく人物として描かれている「なるみ先輩」。ひょうたんモチーフと先輩との関わりも意外性があって、とても面白いです。語り手の「わたし」には、「小さな頃におじいちゃんの家でひょうたんの中身を取り出してからっぽにする作業を手伝った」という経験があるらしいし、なにより「ひょうたん 弱点」で検索して「ウリキンウワバ」にたどり着き、この不思議な語感の言葉をおまじないとしてとなえることを先輩に提案してみるという発想が最高です。

というわけで、全国のひょうたん愛好家のみなさんも、ぜひ一度この作品を読んでみてください。

(373日目∞ 10月14日)