ああ、ここにも空洞が……

by 奥田亮

一年越しで咲いた桔梗。

蕾は紙風船のよう。

明け方、カッコウの声が高らかに鳴り響いて目が覚める季節になりました。カッコウは驚くほどクッキリと日本語で「カッコーッ」と鳴くんですよね。はじめて聞いた時は「近くに信号機あったかな?」とマヌケなことを思いましたが、そういえば町内の信号は音が出なかったような気がします。

7月に入って庭の桔梗の花が咲きました。去年タネをまいたまま、うんともすんとも反応がなく、すっかり忘れていたのですが、今年に入って花をつけたのです。桔梗の蕾は紙風船のように空気を含んでふっくら膨らみます。ああ、ここにも空洞が……。先週の「世界の快適音楽セレクション・からっぽの音楽」以来、からっぽとか空洞について思いをはせているので、桔梗を見てもそんなことを考えたのでした。

そういえばイギリスの現代彫刻家アーニッシュ・カプーアが、昔ひょうたんを使って作品をつくっていたなあとググってみたらYouTubeが出てきました。1995年のことだったのですが、なぜかその映像が2020年の5月になってアップされていたのです。私の検索を待っていたかのようなタイミング! これは、インド出身のカプーアらしく「梵我一如・宇宙創造の器」と題され、ヒョウタンを宇宙に見立てた作品。イギリスの王立植物園やドイツの種子銀行がもつ種子を、ヒョウタンの産地山口県楠町で栽培してもらい、カプーアが日本で制作・展示した国際的なプロジェクトだったようです。

1995年といえば、私がヒョウタンの栽培をはじめて数年経った頃で、ひょうたんで作品を作ったり、楽器を作ったり、あるいはひょうたんの深遠な世界にハマっていった頃。ご縁があって国立民族学博物館でヒョウタン楽器のレクチャーコンサートを開催させていただいた年でもありました。当時このカプーアの作品のことをどこかで知った時、おもわず「ずるい〜」と呟きました。一足先を越されたように感じたんですね。

ところで山口県楠町は、産地の利点を生かして老人ホームでひょうたん楽団を作っていて(今もあるかどうかはわかりませんが)、私の構想したひょうたんオーケストラのヒントになったところでもあったのでした。

そんなことを考えていたタイミングで、先週また空洞の作品に出くわしました。最近関わることが多くなった長野のアーティストささきりょうたさんの作品です。われわれが企画のお手伝いをしている町のとあるギャラリーでの展示を、りょうたさんにお願いしたのですが、展示作品とは別に持ってこられたのが、《空気のパッケージ》という作品だったのです。梱包するビニール袋の中に緩衝剤のビニールを入れて綴じ、表面に何か描いてあるという、空気というか、からっぽが詰まっているともいえる作品です。

ささきりょうたさんの作品《空気のパッケージ》。

ささきりょうたさんは才能あふれるミュージシャンで、彼が歌いだすと、かなり高い確率で客席からすすり泣く声が聞こえるというすんごいシンガー。彼が絵を描いたりもするマルチな天才だったことがわかったのは、つい最近のことでした。彼の作品については、ぜひこちらを!

何やら不思議な存在感のあるこのオブジェ。何点かあずかってスワロー亭で販売することになったのですが、さてこれ、いくらでなら売れるでしょうか。からっぽを売るって、何か面白いですね。でれろん、でれろん。

(306日目∞ 7月6日)

奥田亮 ∞ 1958年大阪生まれ。中学生の頃ビートルズ経由でインド音楽に触れ、民族音楽、即興演奏に開眼。その後会社に勤めながら、いくつのかバンドやユニットに参加して音楽活動を続ける。1993年頃ひょうたんを栽培し楽器を作って演奏を始め、1997年「ひょうたんオーケストラプロジェクト」結成、断続的に活動。2009年金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展に「栽培から始める音楽」出展。2012年長野県小布施町に移住し、デザイン業の傍ら古本屋スワロー亭を営む。2019年還暦記念にCD『とちうで、ちょっと』を自主制作上梓。