空っぽの器は大きな音がする

by 奥田亮

ヒョウタンは天然の空洞である

「空っぽの器は大きな音がする」。たぶん高校生か大学生のころ、通学路にあった小さなお寺の門前掲示板に書かれていた言葉です。もうウン十年も前のことなのに、いまだに覚えています。あぁ、お寺のお坊さんはいいこと言うなぁ、と妙に得心してしばらくこの言葉を噛みしめていました。

もちろんお寺のことですから字義どおりの意味ではなく、無にならなければ大きなエネルギーは生まれない、というフリーエネルギーの原理みたいなことを説いていたのだと思いますが、ヒョウタンで楽器を作りはじめてからは、この字義どおりの言葉が、また頭の中でゴ〜ンと響くようになりました。そうなんです。器の中に何か入っていると、それが振動を妨げて音をうまく響かせられないのです。

ヒョウタンは「天然の空洞」といわれています。ヒョウタンの実は、繊維質が外周に集っているため、乾燥すると表皮が硬くなって中が空洞になるのです(ちなみにヒョウタンとよく間違われるヘチマは繊維質が中に集まるため、タワシになります)。この空洞になるという性質ゆえに、何かを入れる道具として人間に重宝がられ、栽培され続けてきたともいえます。人類最古の栽培植物ともいわれています。

音は二つ以上のものが触れ合った時に出るわけですが、その音を大きく響かせようとすると、そこに必要になるのが共鳴体という空洞です。ヒョウタン楽器の場合、ヒョウタンがその役割を担うことになります。この空洞を気持ちよく響かせるには、できるだけ共鳴体にストレスをかけないことが重要です。楽器づくりの基本も知らず、音の鳴る仕組みも深く考えず、手前勝手に作ってきたので、最初の頃はヒョウタンを何かで縛って固定したり、弦でぎゅーぎゅー押さえつけたりといろんなストレスをかけて、本来出るはずの音量・音質が出ていませんでした。共鳴体がストレスフリーになり、空洞が思いっきり音を響かせることができれば、楽器は与えられた力を存分に発揮することができます。このことに気づいてから、私のヒョウタン楽器も、少しずつ改善されていき、今日に至っているのであります。

さて、ここでお知らせです。 6月27日(土)、NHK-FMの超長寿番組「世界の快適音楽セレクション」で、なんと拙作CDアルバム『とちうで、ちょっと』から、1曲放送されることになりました。この番組は「”快適音楽”を求めるギターデュオのゴンチチによる、ノンジャンル・ミュージック番組」で、毎回「○○の音楽」とテーマを決めて、それにまつわる音楽をゴンチチのおふたりが選んでかけるのですが、この回のテーマは「からっぽの音楽」。ひょうたんがピッタリとのことでチチ松村さんが選んでくださいました。どんな風にかけてくださるのか、今から楽しみです。ぜひお聞きください。CD売り切れたらどないしよう!?……、でれろん!でれろん?