縄文人か草間彌生か
by 奥田亮
今年は苗がひとつも発芽しなかったので、ヒョウタン栽培はナシになりました。ということはヒョウタンが増えない。これは物置を占拠している在庫ヒョウタンを消化するチャンスです。そのためにはヒョウタンで何かを作る必要があります。ただ、作っても出来たものを置いておくだけだったら、荷物は減りません。場合によってはかえって嵩張ります。
古本屋とはいえ、せっかく店があるので販売できるものを作って売ろうと思いました。楽器という選択肢はもちろんあったのですが、前号で書いたように自分の作る楽器はあまり販売に適していませんし、売るために作るという気持ちにはどうしてもなれない。
それで、手始めに昨年出来たたくさんの小さな千成ヒョウタンで、何か楽器じゃないものを作ろうと思い立ちました。小さいのでこれが全部なくなったとしても、それほど専有面積が減るわけではないのですが。
昨年できた千成ヒョウタンは、昨秋収穫後、バケツの水の中に入ったまま、ずっと庭に放置されていました。時には雪に埋もれたり凍ったりしながら冬を越し、春になってやっと乾燥させ、タマネギを入れるネットに入れてありました。50個ぐらいはあるでしょうか。
何を作ろうかとぼんやり眺めておりましたが、ふと思い立って近くにあったポスターカラーマーカーPOSCAで色を塗ってみました。これまでのヒョウタン人生の中で、ヒョウタンに彩色するという方向に嗜好が向ったことはなく、何も塗らずに経年変化を楽しむことをポリシーにしていたのですが、突然そのタブーが破れらたのです。
塗りはじめるとなんだか楽しくなってきました。模様を描くとその面白さはどんどん加速していき、頭を通り越して手が勝手に描いてくれます。何かやばいのヤッてるんじゃないかというくらい、描けば描くほどアドレナリンの分泌が激しくなっていくような不思議な高揚感。縄文人か、はたまた草間彌生になった気分。気がつけばあっという間に8個のヒョウタンに彩色していました。それでふと我に返って一旦手を止めました。見ればなかなか面白いではないか、と自画自賛。これならいくらでも出来そうです。
そういえばこの感覚、昨年作ったCDのジャケット制作で開花したのでした。このCDジャケットは、ヒョウタン型に型抜きしたボール紙を印刷会社に作ってもらい、それに自分で色を塗ったり、シルクスクリーンでタイトルを刷ったりして作ったのですが、最終的に一つひとつに模様を描いていくという行為に走ってしまいました。やりはじめると愉しくなってきて、一つひとつ違う模様を描いていきました。伏見人形などの民芸品の絵付けをする感覚で、200枚ほどできました。限定300部なのもう少しで全部描けます。
さて、この彩色したヒョウタン、何にしようかと考えて向かった先は、手芸用品店でした。続きはまた来週、でれろん、でれろん。
(281日目∞ 6月1日)
奥田亮 1958年大阪生まれ。中学生の頃ビートルズ経由でインド音楽に触れ、民族音楽、即興演奏に開眼。その後会社に勤めながら、いくつのかバンドやユニットに参加して音楽活動を続ける。1993年頃ひょうたんを栽培し楽器を作って演奏を始め、1997年「ひょうたんオーケストラプロジェクト」結成、断続的に活動。2009年金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展に「栽培から始める音楽」出展。2012年長野県小布施町に移住し、デザイン業の傍ら古本屋スワロー亭を営む。2019年還暦記念にCD『とちうで、ちょっと』を自主制作上梓。