楽器店が苦手
by 奥田亮
昨今なにやら暑かったり寒かったりしていますね。信州は内陸のためか寒暖の差が激しくて、朝や夜はまだストーブを焚くこともあったりします。でも陽射しはもうすっかり初夏の強さです。苗ポットの「イプ」は結局ひとつも発芽せず、今年はとうとうヒョウタン栽培なしの年になりました。
前回、はじめて作った楽器をご紹介しました。その後30年近くいろいろ作ってきたのですが、多くは弦楽器です。どうしてなのか、あまり考えたことはなかったのですが、まあ好きだから気がつけばそうなっていたということでしょうか。
よく、ヒョウタン楽器って、どんな音がするんですか?と聞かれるのですが、いつも答えに窮してしまいます。というのも、とくに弦楽器の場合、ヒョウタンそのものが発音しているわけでなく、弦から出た音をヒョウタンで響かせているだけだからです。音色は共鳴板やブリッジ(駒)、ピック(爪)の材質や硬さによっても違ってきますが、なんといっても一番違いがでるのは弦の材質です。
これまで、いろんな弦を試してみました。最初はあたりまえにギター(ナイロン、スチール)や三味線の弦を楽器店で買っていましたが、楽器店が苦手ということもあって、今はホームセンターなど楽器店以外で手に入るものを多くは使っています。テグスや釣り糸は、充分ナイロン弦の代わりになりますし(正直その違いがわからない)、建築用の墨壺糸は、正絹のものもあって、三味線に近い澄んだ音がします。トゥバのイギルを見せてもらうと、弦も弓も細いテグスを束ねたものだったので、真似してみようとデンタルフロスを束ねて試してみたりもしました(これはあまりよくありませんでした)。なにしろ、だいたいはロールで売っていて、弦に比べて格段に安い。
最近のマイブームは、たこ糸。さすがにたこ糸では音が出ないでしょ、とお思いの方も多いと思いますが、お察しの通り全然響きません。ただ、響かない音を増幅させれば面白い音になるのではないかという予感はありました。それに、たこ糸売り場を見ると、意外と太さのバリエーションもたくさんあります。これは試してみる価値はありそうです。値段は忘れましたが、一巻きで一生使えるぐらいたっぷり。
それで作ったのが写真下、右側の《瓢立琴 銘 電柱》です。これは、マダガスカルのヴァリハや東アフリカのコラなどを参考に考えた琴(ハープ)状の楽器で、共鳴板はなく、あえて胴体のヒョウタンそのものに直接駒をつけています。そのため、響かないうえにとても小さな音しか出ません。これをコンタクトマイクで増幅させてアンプから流す方式です。これは打楽器的な弦楽器というか、ノリのいいグルーヴ感が出る楽器になりました。もうひとつが左側。大きな二胡状の楽器ですが胴に張った皮に弦を響かせる方式。これも鈍いながらも皮にボンボンと響く感じが独特です。さらにこれを弓で弾くとギーギーキーキーと倍音の方がよく響き、これまた聞いたことのない音の楽器になりました。便宜上《たこ》と名づけていますが、どうもしっくりこないので名前は仮です。 楽器だからといって、きれいな音を響かせないといけない、というわけではないですね。でれろん、でれろん。
(276日目∞ 5月25日)