由は中空の器
by 奥田亮
私が住む小布施町は、人口1万1千人、4キロ四方の小さな町。この長野県で一番小さな町に、年間で100万人もの観光客が訪れるといいます。例年GWも大いに賑わうのですが、さすがに今年は緊急事態ナントカで、とっても静かです。聞くところによれば小布施町は、人口比率で飲食店の数が日本一多いとか。しかもそのほとんどがチェーン店やフランチャイズではなく個人経営のお店。味のレベルもそれなりにみんな高い。こちらに移住してから、東京にいる時より外食率が高くなってしまいました。
そんなお店がこの事態に、こぞってテイクアウトを始めました。お店にとっては死活問題でしょうが、正直、われわれ住人は喜んでます。小さな町なのでほとんどのお店が徒歩圏、店によっては出前もOK。家飲みのレベルがグンとあがります。
そんなことで、今夜は本格中華で一杯やっておりますよ。問題はちとお酒が進みすぎることでしょうか。いやこれは言い訳……。
さて、お酒といえばヒョウタン、ですね。やっとここでつながりました。本編の「ひょうたん日記」でも紹介されていましたが、「瓢」は水や酒を入れる器。つまり道具の名前がついているのです。他にヒョウタンを表す漢字として「瓠」がありますが、これも刳り貫いた瓜のこと。やはり道具です。
もうひとつ、日常的によく使う漢字の中にも潜んでました。「由」がそれです。由の元の字が「卣(ユウ)」。上の図がその古い字形です(参考:白川静著『字統』平凡社)。
これ、完全にヒョウタンの形です。ヒョウタンを何か台の上に置いたような形。そして真ん中にチョボが書かれています。これはヨゴレでもなんでもなくて、何かというと穴でありまして、どうしてこんなところに穴が書かれているかというと、実際そこに穴を開けていたからなのですが、どうして穴を開けているかというと、そこに指を入れて運んだからなのだそうで、どうしてそこに指を入れて運んだかというと水を入れて運ぶとき、その方が運びやすいし、片手で複数のヒョウタンを持つことができるから。どうしてそんなことがわかるのかというと、実際いまでもそんな風にヒョウタンを使っている人たちがいるのです(参考:湯浅浩史著『ヒョウタン文化誌—人類とともに一万年』岩波新書)。
卣はお酒を入れる器になり、その後青銅で作られるようになり、高貴な人々に使われます。それで、ヒョウタン型に中央がくびれた青銅器のことを卣と呼ぶようになります(参考:「文化遺産データベース」はこちらから)。
「卣」の字が「由」に転じ、さんずいが付いたのが「油」。元はこれ、ヒョウタンの中身がどろどろに液状化したもののこと(ぎゃー、くっさいあれです)。その「油」からドロドロの液体を抜いたのが「由」で、中空の器のこと。「抽」「紬」は中身を出すこと、宇宙の「宙」は空っぽの空間のこと……、じつはヒョウタンはいろんな漢字の中で活躍してたんですねえ……。久しぶりに『字統』を開きましたが、「由」の一字からどんどん漢字のラビリンズに入っていく、この抜け出せない感じがええんですなあ……、だいぶ酔いもまわってきました……、今宵もでれろん、でれろん、でれろん…………。