郷に入りては

by 奥田亮

ぼかし(善玉菌と米ぬかを混ぜたもの)

 

町内の小学生がヒョウタン栽培の大会で2等と5等になったので、そのポスターのデザインをしてくれと役場の人が訪ねて来た、という夢を見ました。さすがにぼちぼちタネまきとかしろ、っちゅーことですね。

そう思って畑に出たのですが、草を取ったり落ち葉を片付けたり、結局土づくりをしていて、タネまきまでいたりませんでした。

こちらに住んでからずっと、生ゴミは堆肥にしています。善玉菌で作った菌液を米ぬかに混ぜ込んだ「ぼかし」(写真上)と呼ばれるものを生ゴミに振りかけ、ある程度たまったら土に混ぜ、雨にかからないようにシートを被せて3日、土は熱くなって発酵が始まっているのがわかります。定期的に攪拌しながら4週間ほど経つと、あ〜ら不思議、生ゴミはすっかり姿を消し、微生物たっぷりの土になるのです。

この方法は、ちょうどこちらに移住してきた年に、町で講演をされていた「生ゴミ先生」吉田俊道さんから教わったもの。吉田先生は、この春公開の映画『いただきます ここは、発酵の楽園』にも出演されている菌ちゃん(微生物)農法の第一人者。先生の講演は、常識をひっくり返すような面白い話がいっぱいで、機会があればまたご紹介したいですが、ご興味のある方は写真(下)の本をお読みください。

おかげでここに住んでからずっと、生ゴミを捨てるということがなく、ゴミの量もぐっと減り、くさい臭いもないうえに、いい土ができるといういいことづくし。この土で作った野菜は、微量栄養素たっぷりのおいしい野菜になります。もっともうちの場合、技術が低いのか愛情が足りないのか、まだ実感を伴うほどにはうまくはできませんが、土づくりだけは毎年せっせと続けているので、いつかはおいしい野菜ができると信じています。

一昨年はこの土でヒョウタンを育てました。そのおかげでしょうか、無肥無農薬なのにとても元気で、毎年の悩みの種、虫の害もほとんどありませんでした。吉田先生によると、虫は元気のなくなった葉っぱを好むので、微量栄養素たっぷりの健康な野菜は好まない、ということなのです。去年は、落ち葉や草を集めてぼかしを振りかけてみました。うずたかく積んだ落ち葉は、時とともにしだいに嵩が減り、半年から一年経つと3分の2ほどが、いい土になっていました。今年もやってみようと思います。

ぼかしは園芸店でも買えますが、いまは、「菌ちゃん農法」を実践している新規就農の若い青年が作ったものをわけてもらっています。このぼかしは「えひめAI」という菌液を応用して作ったもので、納豆菌と乳酸菌を主体にしています。納豆やヨーグルトなど市販の食材でも作れるのですが、彼は無農薬で作った大豆で納豆を作って納豆菌を採取し、玄米から乳酸菌を採取して菌液を作っています。なぜそんな面倒なことをするのかというと、使う場所と同じところから採取した「土着菌」の方が周囲の環境と調和して強いのだそうです。

郷に入りては郷の菌に従え! う〜ん、でれろん。

(260日目∞ 4月27日)

奥田亮 1958年大阪生まれ。中学生の頃ビートルズ経由でインド音楽に触れ、民族音楽、即興演奏に開眼。その後会社に勤めながら、いくつのかバンドやユニットに参加して音楽活動を続ける。1993年頃ひょうたんを栽培し楽器を作って演奏を始め、1997年「ひょうたんオーケストラプロジェクト」結成、断続的に活動。2009年金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展に「栽培から始める音楽」出展。2012年長野県小布施町に移住し、デザイン業の傍ら古本屋スワロー亭を営む。2019年還暦記念にCD『とちうで、ちょっと』を自主制作上梓。