《ビビリンチョ》ですから、ビビり方が命です。

by 奥田亮

後ろに共鳴体をつけた《ビビリンチョ》

先週からの続き、《ビビリンチョ》のメンテ、改良について。メンテのきっかけは、4弦のうち2弦の音のビビり方がよくなかったことでしたが、いろいろ試行錯誤を繰り返し、この先進めるとしたら、かなり大変な作業になりそうだったので、ちょっと横道にそれて、新たに共鳴体をくっ付けるという改良(改造?)を先に行なったのでした。これで全体の形状は、ますます妖怪っぽくなりました。《ビビリンチョ》という名前を再考しようと考えていましたが、こうなるともうこのままでもいいのかなと思ったりしています。

さて、いよいよ本丸。ビビり方の改良です。《ビビリンチョ》ですから、ビビり方が命です。現状、一番低い音をDに調弦しています。これは、4月にKAMOSUがうちでライブをしてくれた時に販売していた尾引浩志さん作の口琴がDだったので、それに合わせたのでした。あと3本は、A D Aと5度とオクターブ上の音に調弦していますが、オクターブ上のAとDの音がよくないのです。これは弦が触れる共鳴板に問題があるのではないかという結論に達したのでした。

というのも、この共鳴板、元のひょうたんを切り出して、裏から削って薄くしてもう一度貼り直しているのですが、ちょっと薄くしすぎた箇所があって、1箇所凹みができてしまっているのです。さらにその補強のために、上から金色のラッカースプレーを何度も吹き付けて塗装していたのですが、この塗料が弦の圧によって筋状の窪みを刻んでいます。これもよくないかもしれません。そこで意を決して、この共鳴板の塗装をはがし、窪みをなんとか修復しようと考えたのでした。

金色で塗装した共鳴板と4本の弦

そうするには、当然いま張っている弦をすべて外さないといけません。せっかくいい感じに安定している低音2弦がバランスを崩してしまうかもしれませんし、銅弦は案外ひねりの力に弱く、一度巻いた弦は、多分もう一度巻くと切れてしまうと思われます。ちょっともったいないなとかケチなことを考えてしまって覚悟が決まらなかったのですが、思い切って弦を外し、ラッカーをヤスリで削り落としました。

共鳴板の塗料をヤスリで削る。

なにやらあられもない姿みたいな。

弦が当たるあたりのラッカーは、なんとか落ちましたが、最初から薄くて凹んでいた付近がさらに薄くなったため、小さくクラッシュしてしまいました。あらら〜、触るとペコペコしています。これはもう厚みが0.3ミリぐらいでしょうか。このままでは弦を張った時に陥没する可能性が高い。

前からあった凹みと、新たにできたクラッシュ。

さて、どうしようか。漆やカシュー、あるいはシェラックなど、いくつかの天然素材も考えましたが、扱いが難しそうですし、どうも決め手に欠けます。そこで思いついたのは、いつも使い慣れているジェル状の瞬間接着剤。まあ、これくらいが自分らしくていいかもしれません。これをたっぷりと凹んだところとクラッシュしたところに盛り上げるように塗り、乾いてからヤスリで削る。これを何度か繰り返すと、思いの外うまくいきました。

問題は、このラッカーを削った後の共鳴板のあまりの見苦しさ。この上にべったりラッカーを塗れば、また最初と同じことになります。そこで苦し紛れに周辺に金色のマーカーで渦模様を描いてみました。

ムラムラを緩和すべく渦模様を描いたけれど…

あー、これはますますよくありません。いっそ周辺だけでなく中の方まで全面的に模様を入れることも考えましたが、なんとなく結果は見えているようでやめておくことにしました。さて、これをどう誤魔化すか。誤魔化すのは得意です。ああ、思えば人生ごまかしごまかし生きてきたなあ……。ということで、またまた苦し紛れにオイルステインを上から塗ってみました。オイルステインは染み込むだけで素材には影響が少ないはずです。塗ってみると金の渦模様がかすれたように浮かび上がり、どこかの遺跡から発掘された埋蔵物のような味わいになりました。結果的にいわゆる、「古び」をつける、ということになったということでしょうか。

オイルスイテンで古びをつけて出土遺物的な様相に。

またまた、音の調整に至る手前で横道にそれてしまい、今週も完成しないまま終わってしまいました。元来、効率よく作業するという考えはないですし、行き当たりばったりで、ああしようか、こうしようかとグダグダ考えるのも楽しみの一つではあるのですが、ぼちぼち仕上げないと人生に間に合わないかもしれませんね、でれろん。

(1342日目∞ 7月14日)