7月7日|でれろん暮らし|その241「またまた《ビビリンチョ》を改良」 by 奥田亮

弾いているとあちらの世界に行ってしまいそうです。

by 奥田亮

《ビビリンチョ》

口にするのも疲れますが、ホントに暑いですね。おかげでひょうたんの生育は順調で、蔓は先週の倍速で伸び、花芽も出てきました。ただ、暑くて外での作業をやる気が出ず、棚づくりはのびのびです。

しばらくは塀を伝ってもらいましょう。 ということで、去年やっと設置したエアコンをつけて、またまた楽器のメンテに精を出しております。現在取り組み中の楽器は、《ビビリンチョ》と名づけたインドのタンプーラ的な楽器です。タンプーラは、主役の楽器の後ろで、インド音楽特有のあのビヨ〜〜ンと伸びる音でドローン(持続音)をひたすら奏でる楽器です。このタンプーラを、長瓢で作ったのが《ビビリンチョ》。

長瓢は通常ただ長いだけでなく、ふんわりとしたくびれがあって、緩やかな曲線を描いているものなのですが、なぜかうちで育ったこの長瓢、ほとんどくびれがなくて真っ直ぐな寸胴。かなり肉厚で全長120cm、しっかりした成りだったのでこの着想を得たのでした。制作工程は「でれろん暮らし」のバックナンバーに詳細に記録していたので、過去の投稿を遡って行ったら2021年5月にありました(こちら)。わりと最近作ったなと思っていたら、なんともう4年以上も前! 4年なんてあっという間にたってしまうんですね。ああ、オソロシヤ。

タンプーラのビヨ〜ンという音は、ジャワリと呼ばれる微妙に湾曲させた板状のブリッジに弦を当てて倍音を長く響かせるのですが、このジャワリの役割を、長瓢の自然の湾曲でできないかと考えて作ったのが《ビビリンチョ》なのです。完成した当初は、このビヨ〜ンの倍音が派手すぎるというか、うるさくて品のない音だったので、《ビビリンチョ》などと少々自虐的な名前にしていたのですが、その後改良が進み、倍音がかなりきれいに響くようになってきたので、《ビビリンチョ》ではちょっとかわいそうかなと思うようになり、ひょうたんのタンプーラで《ヒョウタンプーラ》と呼んでみたりしていたのですが、よく考えるとタンプーラそのものが、ボディがひょうたんでできているので、わざわざヒョウタンと名づける意味もないと思ったりして、現在名前については保留中です(ここでは《ビビリンチョ》としておきます)。

さて、前置きが随分長くなってしまいました。今回のメンテの目的は、このビヨ〜ンという音が美しくない弦があって、その音を調整することでした。というより、4本のうち2本が、音の伸びもよくなくてあまりいい感じではないのです。主には弦の接地面の問題だと思われます。それで、弦の太さを変えたり、途中で弦を縛って短くしてみたり、チューニングを変えたり、ビーズの位置を変えたり、弦に別の弦を挟み込んだり、はたまた弾き方を工夫したりと、なんとか回避できないか試行錯誤を続けました。たまにうまくいくととても気持ちよく、メンテを忘れて、ずーっと弾き続けてしまいました。でもちょっとした拍子に元に戻ったり、余計に悪くなったりと安定しません。

4本の弦のうち、2本の音があまりよくないので、色々工夫。

それはそれとして、このビヨ〜ンという倍音の気持ち良さをもう少し強調できないかという思いが強くなり、まずはそれを改良してみることにしました。思いついたのは《巌窟王》で試みた、共鳴体をもう1つくっ付けるという方法です。本家本元のタンプーラやシタールでも共鳴体を付けるので、王道の方法ではあります。幸い、《巌窟王》に付けようとしてうまくいかなかったUFOで作った共鳴体が放置されていたので、使ってみることにしました。タンプーラに則(そく)せば、ネックの上の方に付けるのがノーマルですが、《ビビリンチョ》は、お花型の弦止めが付いていたりと上部が賑やかで、取り付けるところがなかったので、下に付けることにしました。胴体のちょうど真裏に穴を開け、共鳴体のUFOを、蔓を軸にしてうまい具合に取り付けることができました。

腹に穴を開けて、UFOの共鳴器を装着。

改造後の《ビビリンチョ》

弾いてみるとこれがなかなかいいのです。音が極端に大きくなったわけではないのですが、特に低い(太い)弦が放つ高音の倍音が強調され、複数の倍音が共鳴してさらに別の倍音が響きはじめ、弾いているとあちらの世界に行ってしまいそうです。

もうこれでメンテは終わりにして、このまま弾き方を調整しながら楽しんでもいいんじゃないかという気持ちにもなりましたが、気を取り直して4弦ともきれいに倍音が鳴るようにメンテしようと思います。でも、それには結構大変な手術が必要になりそうです。うまくいくのかな、失敗したらそれまでです。どうなりますことやら。続きはまた次回へ、でれろん。

(1339日目∞ 7月7日)

これまでの『でれろん暮らし』はこちら

  • 奥田亮 ∞ 1958年大阪生まれ。中学生の頃ビートルズ経由でインド音楽に触れ、民族音楽、即興演奏に開眼。その後会社に勤めながら、いくつのかバンドやユニットに参加して音楽活動を続ける。1993年頃ひょうたんを栽培し楽器を作って演奏を始め、1997年「ひょうたんオーケストラプロジェクト」結成、断続的に活動。2009年金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展に「栽培から始める音楽」出展。2012年長野県小布施町に移住し、デザイン業の傍ら古本屋スワロー亭を営む。2019年還暦記念にCD『とちうで、ちょっと』を自主制作上梓。