記録という手段を得た人類の歴史を自分の中で再現している

by 奥田亮

《瓢立琴》調弦のいろいろ

まだまだ寒い日が続いて雪が積もることもありますが、さすがに3月も10日を過ぎると、日差しは春めいてきて日中は暖かです。そろそろタネまきの準備をはじめないといけないのかもしれません。今年はどうしよう。

前回は《3.5弦》のメンテについてご報告しましたが、並行して前々回までご紹介していた《瓢立琴》についても微調整を続けています。駒を作り変え、弦を張り替えてかなりいい感じになってきているのですが、何度か弾いていると弦と弦との間の幅が一定していなくて弾きにくいことがわかってきました。そこで弦を固定する底面の穴を開け直してできるだけ等幅になるように改良。

さらに弾いていると今度は、音程によって弦の張り具合が違っているのが気になってきました。低い音には太い弦を、高い音には細い弦を使ったのですが、駒の位置との関係もあって、一筋縄にはいかないようです。5種類の太さの弦を使っていたのですが、どうもそんなに太さを変えなくてもいいことがわかってきて、3種類の太さの弦に張り替えました。

これでけっこういい感じになってきたので、次に調弦をどうするか考えることにしました。瓢立琴は琴なので、基本的に1弦1音。7弦なので7音を決めます。当初想定していたのは、真ん中の1音を一番低い基音にして、左右に3音ずつ上げていくという構想でした。いくつか試してみたのですが、一番低い音が基音になることもあればそうならないこともあります。弦の長さや太さは同じなので、響きのよい音程はおおむね自ずと決まってきますし、7音の違いのバリエーションはそれほどたくさんあるわけではありません。全音(長2度)あるいは半音(短2度)変えるだけでも違う世界が広がります。

いままでは調弦も行き当たりばったりで何の記録も残していなかったので、たまたまいい感じの調弦になっても、一度変えてしまうとどうだったかわからなくなってしまいました。そこで今回は調弦を記録することにしました。ピアノで音を採りながらスマホで撮った画像に音名を書き込んでいきます。なんだか賢くなったような気分。記録という手段を得た人類の歴史を自分の中で再現しているといえばいえなくもない……、だいぶ大げさですね。

でも、これは聴覚情報として覚えるべきものを視覚情報に変換して記録するわけで、20世紀前半までの人類の記録の歴史は、五感情報を文字や図といった視覚情報に変換してきた歴史でもあるよなと思い至るのでした。確かに記録すると再現性は格段に上がるのですが、それによって聴覚の記憶能力が落ちるのはあらがいようがありません。直感も鈍るんだろうなと思います。

ともあれ、響きが良くなって調弦も決まると、なんだかちゃんとした楽器の音になったような気がしてきます。それではなんとなく面白くないので、たまにさらに調弦をいじって微分音を入れてみたりすると、微妙にズレた感じがなんだかクセになって、それはそれでアリだなと思ったり。調弦を楽しめるのは1弦1音の琴系楽器の面白さではありますね。何の知識もありませんが、平均律にしばられず、ちょっとズレた調弦にしてハリー・パーチごっことかしてみたり。あ、パーチ先輩すみません、でれろん。

(1290日目∞ 3月10日)