この際《げじげじ》独自の音を追求してみようと

by 奥田亮

《げじげじ》

先週から引き続き、自作楽器の紹介とそのメンテ、改良について。

今回とりあげる楽器は《げじげじ》。《げじげじ》はアメリカ瓢(ロングハンドルディパー)を使った複弦2コースの発弦楽器です。アメリカ瓢は、真っ直ぐ長い首の下にぽっこりとした膨らみのある体長1メートルほどのひょうたんで、こんな形が天然自然の形としてあり得るの?と言いたくなるほど均整のとれた形をしています。

この品種をはじめて栽培したのは、2009年に金沢21世記美術館で開催された「愛についての100の物語」展の出展作家として「栽培から始める音楽」と題した長期のプロジェクトを行った時でした。美術館の中庭に大きなひょうたんの棚を設置し、そこに地元の園芸屋さんの協力で植えたいろんな品種のひょうたんの中の一つだったのです。当時、その品種のことは知ってはいましたが、タネが手に入るとは思っていなかったので、はじめてその実を見たときはビックリしました。翌年タネをいただき自宅栽培。小布施町に移住してからも何年か栽培していました。《げじげじ》はその時にできた実の一つから生まれました。

前述したように、このひょうたんの特長は、人工的に作ったのかと思いたくなるほど真っ直ぐでシンメトリーな形です。最初っからもう「楽器にしてください」と言ってるといっても過言ではありません。栽培段階から弦楽器にする構想は明確にありましたが、できるだけ元の形をそのまま生かしたいので、ネックの指板をどうするか、というのが課題でした。ギターのような指板にするとすれば、ネックに平坦な板を取り付けなければなりません。そうすると、この魅力的な真っ直ぐな首が見えなくなってしまいます。

そこで思い出したのが、中国の《月琴》でした。これなら円錐形に湾曲したネックでもフレットを付けられます。ということで、フレットの素材として採用したのが、北陸方面の鉄道の駅弁で有名な「ますの寿司」の蓋を固定している竹の板でした。輪ゴムでしっかり固定されているこの竹板は、絶対何かに使える、と以前から取っておいたのが何枚かあったのです。竹板を首の湾曲に合わせて丸く整形し接着剤で固定しました。これでネックとフレットはうまくいきました。

共鳴板をつけるか、ひょうたんそのものを響かせるか悩みましたが、ここは楽器としての音を優先させて、ひょうたんを切ってバルサ材の共鳴板をつけました。弦は細いテグスとナイロン製の三味線の弦を採用。ブリッジはテンションを上げすぎないように低くし、素材もやわらかなアガチスにしました。弦の2コースは5度または4度に調弦し、低い方は太い弦と細い弦のオクターブ違いの複弦としました。

これで、かなり乾いた軽い音の楽器になりました。この音を聴くと、なぜかどうしても西アジアやイスラム圏の音楽が脳内を巡り、そのような音楽を弾いてしまうのです。音色のイメージが音階やメロディを誘発させてしまうのです。いやまあそれは悪くはないんだけれど、そんな西アジア風(イメージ)を奏でる必然が自分の中に見当たらないし、他の人と合奏するとしても、どうもしっくりきません。それでなんとなく弾く機会がだんだんと減ってきてしまい、ある時、弦が切れたのをきっかけに放置していました。《げじげじ》独自の音色というより、何か既存の楽器をなぞらえたような音色というのもモチベーションを下げてしまっているのだろうなと思います。

共鳴板はバルサ材。弦は細いテグスやナイロン弦。音は悪くないんですが、面白くなくなってきたんですね。

ますの寿司のフレットが取れ始めました。

弾かなくなると、どういうわけか壊れたり部品が取れたりし始め、フレットの「ますの寿司」の竹板が次々に取れていきました。ということでいよいよメンテしないといけないのですが、この際《げじげじ》独自の音を追求してみようと思い始めています。まずは弦を変えてみようとは思っていたのですが、もしかしたら、この「ますの寿司」の竹板がこんなに高くなくてもいいのかもしれないなという気もしてきました。きれいな音色ということではなく、《げじげじ》ならではの音色が出るように、いろいろ試行錯誤してみましょう。完成はいつになるんだろう……。でれろん。

(1257日目∞ 12月9日)