異端を目指していたのに気がつけば王道に取り込まれていた
by 奥田亮
今年のひょうたんづくりは、すっかり乾燥も終え、とりあえず完了。年内、しかもまだ11月にすでに完了しているなんて何年ぶりでしょう。素っ頓狂な姿を改めて見ると、栽培から8カ月もかかったなんて思えない気もするし、8カ月でよくこんなのができたなという気もします。来年もまた大型品種〈大寿〉のタネをまこうか、あるいは小さな千成を作ろうか。
今年はどういうわけか他所に呼ばれて演奏する機会が多くありました。年内はもうそんなイベントの予定もないので、ちょっと楽器のメンテを兼ねて音色の再検討を始めました。ひょうたんで作る楽器は弦楽器が多いのですが、せっかく作るのなら聞いたことのない音色の楽器にしたいと、弦や共鳴板、ブリッジなどに使う素材をいろいろ試してみたり、形や長さ、大きさを「大丈夫かな」と思うようなものにしてみたり。それで、ああ、聞いたことのない面白い音だなというものができると「よし」となります。
ところが、その楽器を何度も弾いていると、何やら物足りなくなってきて、少しずつ改良を加えたりします。そうするとよく響くようになったり、音の伸びがよくなったりするのですが、それが結果的に一般的に普及している楽器の「いい音」に近づいていくことになります。確かにいい音にはなったけれど独自色が希薄になってしまうのです。異端を目指していたのに気がつけば王道に取り込まれていた、といえばいいでしょうか。うーん。結局、異端は王道には敵わないのか。でも、もう少し王道に抗いたい、というか、王道になれるはずもないけれど、第三の道があるのではないか……。
楽器メンテの手始めとして、まずは収納しやすくするために紐をつけてぶら下げられるようにしました。弦楽器は縦に長くなることが多いので、ぶら下げて収納するのが、一番スペースをとらず安全なのです。次は音色の検討です。気になっていたのは《巌窟王》。この楽器は最初に《ダイブナガーイ》として誕生してから、かれこれ20年ぐらい経っています。それが10年ほど前に《ヘビオ》になり、今年1月のライブ中にひょうたん部分が突然崩落し、現在の形になりました。現在は複弦2コースのスライド奏法専用の楽器です。
《巌窟王》が完成した当初はシタール用の銅弦を張っていて、その独特の粘りのある音が気に入っていたのですが、どうも鳴りがよくなくて、音も小さかったので、エレキギター用の一番細いステンレス弦に張り替え、調弦も高めにしたら、張りがあって、ある意味楽器らしい響きになりました。それはそれで悪くなかったのですが、弾くうちに面白くなくなってきてしまい、そうなると自ずと弾く機会も減ってしまいました。そこで今回、また銅弦に張り替えてみることにしたのです。前回よりは細い弦を使いつつ、テンションは緩めにしてみました。弾いてみると張りのある結構独特の音。試し弾きのつもりが、楽しくなって10分以上弾いていました。やっぱり銅弦がええやんか。よくみると共鳴板が割れてひょうたんの胴体から浮いてしまっていました。音が小さかったのはこれが原因だったのかも。接着剤で固定するのが難しそうだったので、針金で締め上げました。もうちょいスマートな方法がないかしらん……。まあいいか。
とりあえず《巌窟王》はこれで一段落。さて、次のターゲットは《芳一》です。長くなりそうなので次回に持ち越します。ではでは、でれろん。
(1248日目∞ 11月18日)