帰ってきた縮緬いぼ瓢「ハドリアヌス」

by 丸黄うりほ

①大阪の丸黄宅ベランダに帰ってきた「ハドリアヌス」4個の実

②「ハドリアヌス1号」。最もいぼがびっしり

③「ハドリアヌス2号」。最も大きく、メロンくらいのサイズ

④「ハドリアヌス3号」。最も優美な形

⑤「ハドリアヌス4号」。いぼがまばらで青リンゴのよう

⑥どれも個性的でかわいい! 

「ハドリアヌス様が戻られた!」

私の耳には、ローマの民衆の声(日本語)でそのように聞こえました。そして、私の目には手を振りながらローマの街を凱旋する市村正規さん(『テルマエ・ロマエ』)の明るい表情が見えました。

そうなんです。今年の春、大阪市内の自宅のベランダで栽培を始めた縮緬いぼ瓢に、ローマ皇帝からいただいた「ハドリアヌス」という名前をつけた報いなのか、このひょうたんは6月3日、プランターごと奈良県に出陣することになってしまったのです。(「ひょうたん日記」1185日目

その後、引き取っていただいた塚村編集長のご自宅ですくすく育ち、6月に花が咲きはじめ、7月中には4つの雌花が4個の実になりました。それから約3カ月たって完熟し、しっかりと表皮がかたくなり、白っぽくなった4個が……(感涙に声をつまらせる)。

……つ、ついに、10月末に我が家に戻ってきてくれたのです!

6月にベランダを去った時には、まだ花すらなく、幼さの残る苗だった「ハドリアヌス」が、このような立派な4つの実となって帰ってきてくれた……!私は老母になった気持ちで、そのたくましく成長した姿を、目を細めて見つめました……。

写真①は故郷のベランダにすっくと立つ、4個の勇姿であります。左から「ハドリアヌス1号」、「2号」、「3号」、「4号」。

「ハドリアヌス」が奈良に遠征していた間に、マンションの大規模修繕工事もだいぶ進み、ベランダの柵が新しくなりペンキも塗り直されて、こちらもきれいになりました。

さて。では、1個ずつじっくりと鑑賞していくことにしましょう。まずは最初にできた「ハドリアヌス1号」(写真②)です。高さ15センチ、直径14センチ。キウイフルーツのような楕円体に、いぼがびっしり。いぼ密集度は4個のうちこれがいちばんで、お尻のほうまで隙間なくいぼに覆われています。

2個目にできた「ハドリアヌス2号」(写真③)は、高さ17センチ、直径17センチのほぼ球形。ちょうどマスクメロンを思わせるサイズ感で、4個のうちで最も大きい実となりました。「1号」に比べると、いぼのない部分が大きく、いぼがすでに茶色くなっている部分が目立ち、なんとなくチョコミントを思わせる色合いもキュート。お尻のほうは比較的いぼの密集度が高くなっており、見る角度によって違った趣きを感じさせます。

3個目にできた「ハドリアヌス3号」(写真④)は、高さ15センチ、直径15センチ。上から見ると丸みが強く、ほんの少し尻すぼみの優美な形。2号と同じく、いぼのない部分があり、眺める角度や部分によって印象が異なります。

4個目にできた「ハドリアヌス4号」(写真⑤)は、あきらかに他の3個とようすが異なります。大きさは高さ12センチ、直径12センチでちょうどリンゴぐらい。いぼが少ないだけでなく、いぼ一個の大きさも小さい。そのかわりに、つるんとした部分が目立っています。

「4号」は、「ひょうたん日記」1220日目にも書いたように、縮緬いぼ瓢の雌花と千成ひょうたんの雄花を受粉させたハイブリッドなのです。千成ひょうたんのようなくびれはありませんが、他の実よりも少し小さめで、いぼも少なめ。これはこれで大変面白いひょうたんになりました。

4個を集め、あらためて比べてみると、どれも個性的でかわいい(写真⑥)。そして全員お尻の座りがとてもよく、床に置いてみるとどっしりとした安定感があるのもいいですね。

私はこのように収穫したての薄い緑色をしたひょうたんが大好きなので、できればこのままで永久保存したいくらい。ですが、そうもいきません。全体が腐ってしまわないうちに、そろそろ加工に入らねばなりません。

「今のうちに、とくと眺めておくがよい!」という市村正規さんの声が、私の耳の奥でこだましました。

(1246日目∞ 11月13日)