完成といえば完成だし、未完成といえばそう、という状況
by 奥田亮
楽器改造の続きです。先週けっこういいところまで進んで、残すところはブリッジ(ジャワリ)と胴体安定のための仕組みづくりのみ、という状況でした。作業は先週のブログ原稿をアップした後も引き続き進めていたので、今週は楽勝で完成のお披露目ができると目論んでいました。
で、3月2日現在どうかといいますと、完成といえば完成だし、未完成といえばそう、という状況といえばいいでしょうか。ブリッジのジャワリは難しいだろうなとは思っていたのです、思った以上に難題で、うまくいったりいかなかったりを行きつ戻りつしております。
ジャワリ(ジョワリ)というのは、インドの弦楽器に多用されている、弦の音を高音の倍音で濁らせてビヨヨ〜ンとビビリ音を響かせる仕組みのこと。日本の琵琶や三味線にも同様の仕組みが採用されており、「さわり」と呼ばれています。「ジャワリ」と「さわり」、音が似ているし琵琶はインド〜中国と伝来してきたことを考えると、同源に違いないと思っていたのですが、どうもそんなに単純なことでもないようです。諸説あるようですが、参考としてひとつの説をご紹介します。(琵琶奏者・双山敦郎さんブログ「琵琶のサワリの歴史」)さて、どうなんでしょうね。
ジャワリは、ブリッジで弦が面で接触することで複雑な倍音が生まれ、ビョヨ〜ンという音にります。前世の《へびお》では、平面ではなく太い竹の曲面を使うことでその効果を出していました。それはそれで割合うまくいっていたので、とりあえずこの竹をもう一度使いつつ、高さを上げたり、局面を削って少し平面に近づけたりして、何度も調整していきました。
うまくビビリ音が出たり出なかったりしながら、こんなもんかなというところに落ち着き始めたのですが、なんかどうも音の伸びが良くないような気がして、もしかしたら高さを上げるための角材がやわらかめのアガチスだからかもと、硬い紫檀を使ってみることにしました。確かに硬い木を使うと硬い響きのいい音になり、金属弦との相性もよさそうです。なんだかんだ試行錯誤していくうちに、結局竹を使うこともやめて、弦の当たるところも平たい紫檀の板を使ってみることにしました。
音の響きはよくなったのですが、今度はあまりビビリ音がでません。平面を少し削ったり高さを調整したりと何度もやり直したのですが、確証がないままにいろいろ試してみたので、結局どれが正解なのかわかりません。ほんのちょっとの変化で音が変わるので、一晩たつとまた違ったり。そんなこんなで、何度も試し弾きを繰り返すうちに、銅弦の音の響きそのものが気持ちよくて弾くことが面白くなってしまい、「いや、べつにそんなにビビらなくても、この音でわりといいやんか」と思ったり、いやそれでもやっぱりちょっとビビリ音があった方がいいよねと調整したり。ということで、暫定的にこれでひとまずの完成と言ってもいいのかもしれません。
最終的に気になったのは、開放弦で弾いた時とスライドバー(金属の筒)を弦に当てた時で音質・音量が違ってしまうこと。これは、ブリッジの位置によって変わることがわかり、サウンドホールの上に、半分ホールを隠すようにブリッジを載せるのが一番よさそうです。
ただもう一つ、弾く時に楽器が安定する仕組みをつくる、という課題がまだ未解決のままです。これはどうもまだ妙案が思いつきません。まあ、不便だけど現状で弾けなくはないので、じっくり考えて、思いついた時にやってみようと思います。
ということで、こんな音になりましたというご報告の動画をご披露させていただきます。テキトーな感じで弾いています。曲は「ラーガ ナンチャッテーナ?」。
で、もう《へびお》と呼べなくなったこの楽器の名前をどうすべえと考えまして、とりあえず、一番の特徴と言える上部の共鳴体の形にあやかって《巌窟王》とすることにしました。また変えるかもしれませんが。でれろん。
(1150日目∞ 3月4日)
- 奥田亮 ∞ 1958年大阪生まれ。中学生の頃ビートルズ経由でインド音楽に触れ、民族音楽、即興演奏に開眼。その後会社に勤めながら、いくつのかバンドやユニットに参加して音楽活動を続ける。1993年頃ひょうたんを栽培し楽器を作って演奏を始め、1997年「ひょうたんオーケストラプロジェクト」結成、断続的に活動。2009年金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」展に「栽培から始める音楽」出展。2012年長野県小布施町に移住し、デザイン業の傍ら古本屋スワロー亭を営む。2019年還暦記念にCD『とちうで、ちょっと』を自主制作上梓