ひょうたん本の情報満載!坂崎重盛『蒐集する猿』
by 丸黄うりほ
ある日「X」を見ていたら視界に入ってきたひょうたん表紙本。「おおっ、これは素敵な表紙!」と、胸がときめき、すぐさまAmazonでジャケ買いしたのが、板崎重盛『蒐集する猿』(発行:同朋社 発売:角川書店)です。
恥ずかしながら、坂崎重盛さんのお名前はエッセイストであることと、アルフィーの坂崎幸之助さんの叔父さんであることをぼんやりと知っていたくらい。まさか、ひょうたん蒐集家でいらしたとは。この本を読むまで存じ上げておりませんでした。
写真①は私が引かれた表紙で、クリーム色のカバーがひょうたん型にくりぬかれています。カバーを外すと、写真②が出てきます。クローズアップしますと、ひょうたんが見えます!(写真③) 裏表紙の帯には、「ひょんなことからひょうたん本やひょうたん型美術工芸品を集めだしてしまった」とも書かれています(写真④)。
奥付を見ると、2000年9月に発行された本のようです。2003年にちくま文庫にも入ったようですが、そちらは表紙がひょうたんではありません。現在はどちらも絶版になっています。気になった方は、古本を探してくださいね。
さて。本をパラパラとめくると、坂崎さんはとにかくものを集めてしまう人だということがわかりました。最も多くのページを割き、詳しく紹介されているのがステッキのコレクションについてです。そして、次が東京について書かれた本(東京本)。さらに、影絵(影)、富士と続き、最後に出てくるのがひょうたんです。
P241から始まる「私のひょうたん探々録」は、最初に[この項に登場する「ひょうたん系」の人々、また、その著書・作品など]という一覧表が出てきます。この一覧表だけで、ひょうたん好きにとってはたまらん情報量。読み進むと、坂崎さんがひょうたん型をした工芸品を集めだしたいきさつについて書かれていますが、じつはそこは本題ではありません。刷り物(印刷物)が大好きだという坂崎さん、本格的にひょうたんに興味を持ち出したきっかけになったのも、金沢の古本屋で偶然見つけた本だったらしい。
その本は、大正11年に発行された、七五三翠巖なる人物による私家本『瓢箪ものがたり』。この本との出会いについて坂崎さんは「ひょうたん世界が向こうからやってきた」と書かれています。そして、この本の内容について紹介しているのですが、そこに書かれているのがまた、さまざまなひょうたんの逸話や詩や画や人物の紹介なのです。この本自体が「ひょうたん百科」であると。
『蒐集する猿』という宇宙のなかに、『瓢箪ものがたり』という宇宙がある。そのなかにはまた次の宇宙があって、どこまでも続く入れ子になっている感じ。坂崎さんの筆致からも、ひょうたんのようなヘンテコなものに、はからずもはまってしまった……という、うれしいんだか、諦念なのかわからないような気配が感じ取れます。そして、それは私自身にも迫ってくるものがあるのです。
『瓢箪ものがたり』のおおまかな紹介のあとには、中野美代子さんの『仙界とポルノグラフィー』や『ひょうたん漫遊録』、高田保さんの『ブラリひょうたん』などのひょうたん本のことや、全日本愛瓢会のことなどもさらりと書かれています。また、ひょうたんの印譜やデザインも少し載っています。読みながら、私は「チェックしないといけないものが、まだまだいっぱいあるなぁ。これは沼だな……」と感じました。
ああ、ひょうたんは底知れない。怖いものです。坂崎さんの「猿」という自虐にも大いに共感いたします。
ただし、坂崎さんの文章のなかで、一箇所だけ賛成できないところがありました。コレクションは男性のDNAを持った生物のものであり、女性のコレクターというのはあまり聞かない。いることはいるが資産価値のあるものに限るだろう……的なことを書いたあとで、「しかし、ひょうたんや、ひょうたんに関する文章を集めようなどと思う女性がいますか?」と書かれているのです。
これについては「えっ、ここにいますけど」と答えるしかありません。それに、私の周囲にいるヒョータニストさんは断然女性のほうが多いしなぁ。
(1124日目∞12月21日)