風土の違う二つの場所で生まれた倍音を混ぜ合わせる
by 奥田亮
11月11日(土)、スワロー亭で「虹のうた、風のねいろ〜南シベリア・トゥバのうた」と題したライブイベントを開催しました。出演は、トゥバ共和国に伝わる倍音唱法ホーメイや楽器を演奏される鎌田英嗣さんと葛目絢一さん。お二人とも何度も現地に行かれ、コンクールにも入賞されたツワモノです。ライブはまず、葛目さんと鎌田さんそれぞれのソロ演奏があり、その後お二人でのセッション。最後に奥田もひょうたん楽器で共演させていただきました。演奏がひと通り終わった後は、鎌田さんを中心にホーメイの解説と歌い方の簡単なワークショップタイムもあって、約2時間たっぷり異国の音楽を堪能しました。
トゥバの音楽は歌にせよ楽器にせよ、その多くが倍音を生かしてさまざまに展開させた音色で成り立っています。ホーメイと総称される倍音唱法にも、スグットやカルグラーといったいろいろな技法があり、複合技を合わせると30数通りもの唱法があるとのこと。楽器もだいたいは主音がきれいに鳴るのではなく、倍音を伴った(むしろ倍音が強調された)濁りのある音が多いようです。
擦弦(さつげん)楽器のイギル(二弦)、ブザーンチゥ(四弦)は、細い糸状のテグスをよった弦を弓で弾くのですが、弓で弓を弾いているようで、これではキーキーと甲高い倍音が出ても仕方ありません。というか、意図的にきしむような甲高い倍音が出るように作られています。縦笛のショールも、きれいな音を出すのではなくフーッという息の音を伴ったしわがれた音が本来の音なのです。バイオリンやチェロ、フルートなど西洋楽器を聴き慣れた耳には、なんか下手くそなんかなと勘違いするかもしれませんが、脳ミソの裏っ側を撫でられるような音は聴き慣れると虜になります。なんとも不思議な音世界です。
さて共演の件です。そんな「倍音責め」の音楽に対して、どんなひょうたん楽器で応戦しようかと考えたのですが、やはり眼には眼を(?)、倍音には倍音を、ということで選んだのは《ヘビオ》と《ヒョータンプーラ(びびりんちょ)》。ビヨヨ〜ンと唸るインド風の楽器に登場してもらうことにしました。シタールやタンプーラなどのインドの弦楽器は、ブリッジにジャワリという湾曲した板が付いていて、弾いた弦が接触してビヨヨ〜ンという音が鳴る仕組みになっているのですが、わがひょうたん楽器にもその仕組みを取り入れています。このビヨヨ〜ンに倍音が多く含まれているのです。
ただ、この音色はトゥバの楽器に比べると少し湿り気のある音のように感じます。楽器は生まれた風土の影響を受けるのかもしれません。今回の共演では、風土の違う二つの場所で生まれた倍音を混ぜ合わせるという試みを密かにしていたのですが、さてうまくいったのかどうか。弾いていて気持ちがよかったので、まずまずいい感じだったのではないかなと思います。最後の一曲は、トゥバの乾いた倍音に寄せて、タコ糸を張った《電柱》の響かない音で合わせてみました。終演後、お客さまの一人から、響かない音いいですね、とお褒めの言葉をいただき、共感してくださる方がいることをうれしく思いました。
ホーメイという特殊な音楽に魅せられ、その世界を極めようとする音楽家と、楽しい時間を共有させていただくことができました。至福、至福、でれろん。
(1097日目∞ 11月13日)