「夕霧そば瓢亭」で口福と瓢愛に満たされて
by 丸黄うりほ
大阪梅田、お初天神の近くにある「夕霧そば瓢亭」。私の場合、昔からある超有名店って名前だけ知っていて、すでに知っている気になってしまうのです。そんなわけで気になりながら行ったことがなかったこちらのお店に、つい先日初めてうかがいました。
お店にうかがったのは午後2時ごろ。赤い暖簾に染め抜かれたひょうたんマークが愛らしい!「ここ瓢亭」という石碑も立っていて、外観からも老舗らしさが伝わってきます。(写真①②③)
昼食の時間帯を少しはずしてしまったので、営業時間外かもと思いながらお店の外に立っているおしながきを眺めていたら、お店の方が顔を出し、「うちは昼と夜の間の休みなく、ずっと営業しているんですよ」と声をかけてくださいました。
中へ入らせていただくと、ひょうたんの暖簾がお店のあちこちに! いろいろな形のひょうたんがあって、どれも味わい深く可愛らしい(写真④⑤)。あまりにもうれしくて、お店の方にもつい「私、じつはひょうたんが大好きなんです!」と打ち明けてしまいました。
「ひょうたんが好き」と口に出すと、人によってはスルーされることもあるのですが、こちらの店員さんはまったく違いました。優しい笑顔で、「そうですか。この店の先先代の主人が、ひょうたん好きだったんですよ」と教えてくださったのです。
おしながきには、梅肉とシソ酢を練りこんだ「名物お初そば」や、濃厚な海老入りカレーのかかった「カレーそば」、黒そばの「鴨なんば」などそそられるものが並んでいましたが、まずは店名にも入っている「夕霧そば」をいただかねばということで、冷たい「夕霧そば」を注文しました(写真⑥)。
お店の方はネギ、大根おろし、わさびなどの薬味を、わざわざひょうたん型の小皿にのせてもってきてくださいました。通常は四角い小皿を使っておられるようです。なんという心配り!こういうところが違うんだな、さすが名店だなと感心しました。
「夕霧そば」は、白いそば粉に、細かくすりおろした柚子の表皮を混ぜて打った変わりそばで、近松門左衛門の『夕霧阿波鳴渡』にも描かれた夕霧太夫からその名がつけられたそうです。そう、「ひょうたん日記」をずっと読んでくださっている方なら覚えてくださっているでしょうか? 新町の吉田屋にいた夕霧です。新町遊廓は、もともと「瓢箪町」と呼ばれていたのです。(2022年11月17日のひょうたん日記へ)
色白美人を思わせる真っ白な「夕霧そば」は、ほんのり柚子が香り、とても上品な味でした。出汁に玉子を落としてあるのも特徴です。量もしっかりとあって、お昼ならこれだけで大満足。
今度は夜に来て、天ぷらやにしん、づけ玉子などもいただいてみたいなと思いつつ、口福にうっとりしていたら、お店の方がテーブルの上に布巾を二枚、そっと置いてくださいました。
広げてみると、ひょうたんの意匠です。一つは七つのひょうたんが踊っている柄で、もう一つはひょうたんが暖簾のようにつながっている粋な柄。どちらにも「夕霧そば」「お初梅ぎり」「瓢亭」などの文字が入っています(写真⑦⑧)。
「わあ、素敵ですね!」と私は思わず声を上げてしまいました。
すると、「以前はこれをお客様に差し上げていたんですよ」とお店の方。「もう今は配っていないんですが」。
いいなあ、私も欲しかったなあ……と思いながら、布巾を眺めていると、「使い古したものですが、それでよかったら差し上げます」とお店の方。
なんと、うれしいお土産までいただいて、心もお腹もぽかぽかです。「ひょうたんが好きでよかった!」と、胸の奥から思いました。
(1096日目∞ 11月10日)
※次回1097日目は奥田亮「でれろん暮らし」11月13日(月)にアップ。
1098日目は丸黄うりほ「ひょうたん日記」、11月14日(火)にアップします。