神君クラウディウスのひょうたん化
by 丸黄うりほ
今年、我が家で栽培中のひょうたんの名前はウェスパシアヌス。毎年うちのひょうたんにはローマ皇帝からいただいた名前を付けていることを、この日記で何度か書きました。
その習慣が始まったのは2013年に育てていたクラウディウスからです。帝政ローマのアウグストゥス、ティベリウス、カリグラ、そしてその次の皇帝がクラウディウス。第4代ローマ皇帝です。
このクラウディウスという皇帝、先代のカリグラの伯父で血統的には高貴な人物なのですが、かなりひどい政治をやったようであまり評判がよくありません。血族であっても裁判もせずにばんばん首をはねたらしい。そんなわけで最後がたいへん悲惨です。妻である小アグリッピナに「毒キノコを食わされて殺された」といわれているのです。
おまけに、その死後。第5代皇帝ネロの時代になって、ネロの幼少期の家庭教師だった小セネカによって風刺小説のネタにされました。そのタイトルが『アポコロキュントシス』です。
『アポコロキュントシス』(国原吉之助訳)は、岩波文庫『サテュリコン』に併載されているので現代の日本人も手軽に読むことができます。そのサブタイトルは「神君クラウディウスのひょうたん化」。解説を読むと、アポコロキュントシスという古代ローマの言葉の意味は、「ひょうたん化」だというのです!
そんなわけで、私は最初、もしかしたらクラウディウスがひょうたんに化ける物語なのかなと思って読んだのですが、最後まで読んでもクラウディウスはひょうたんにはなりませんでした。クラウディウスは、毒キノコのせいで糞を垂れ流し、苦しみながら死にます。そして、死後は天上界で神となることを拒否されて冥界をさまようことになります。その皮肉と憎悪に満ちた筆致からは、作者の小セネカがいかにクラウディウスを憎み、バカにしていたのかがよくわかります。
「ひょうたん」は、庶民のあいだで「脳味噌が空っぽの頭」という意味で使われていた隠喩らしい。クラウディウス皇帝は、古代ローマの庶民たちに「ひょうたん野郎!」と悪口を言われていたのですね。
我が家の狭いベランダを、夏の間端から端まで独占するひょうたんは、まさにローマ皇帝のように威張っています。暴君です。
というわけで、2014年ネロ、2015年ガルバ、2016年オト、2017年ウィテッリウス、2018年はお休みして、2019年ウェスパシアヌスと続くことになりました。