靴下は、衣料の中では小さな存在ですが、セーターと同じくらいいろんな工夫で編まれています。決して主役ではないけれど、まったくの裏方でもありません。「クツシタさん」は、そんな靴下を応援する3人組です。靴下生産量が日本一の町、奈良県・広陵町。『広陵町の靴下百年史』(2013年)の編集に携わって以来、靴下デザインコンテストや「靴下の市」などに協力してきました。ここではワンシーズンに1足の靴下を紹介し、販売します!

靴下の町・奈良県広陵町で見つけた「おやすみくつした」は、“まるで新雪を踏んでるみたい”な履きごこち。雪のようにふわっとした真っ白な紙で包んでメリノウールの表記をしました。(文・写真・パッケージデザイン:長岡綾子)

 

社長が控えめに差し出した「おやすみくつした」


この靴下との出会いは2年ほど前のこと。広陵町にある家族経営の靴下工場「株式会社 塚本」へ見学に伺った際、社長の塚本倉司さんが、「これはオリジナルで作っているんだけど」と、控えめに見せてくださったのです。

塚本さんの会社は〝完全受注生産〟で、靴下を製造しています。メーカーやスポーツチームなどから、こんな靴下がほしい、という注文を受けて決まった数だけ作って納めるのです。

ところが、そっと差し出された「おやすみくつした」は受注ではなく、塚本社長が自ら考案して製造し、自社のホームページで販売していたのです。

寝るときに履く靴下として編み出された「おやすみくつした」は、ふかふかでやわらかい厚みがあり、触ってみると、ものすごく気持ちよい手触り。

「これね、メリノウールなんです」とつぶやく塚本社長。

え、靴下にメリノウール!ぜ、ぜいたく。メリノ種といえば羊の中でも最も優れた品質の羊毛を、最も多く産出している羊種。繊維が細くて柔らかい。

「気持ちいいんですよ。僕は毎晩、履いてます。これね、〝新雪を踏んだみたい〟な感じを目指したんです。気持ちいいですよ~」。

履いてみたい!と、ちょっと高いけれど、さっそく買い求めて履いたのが、2年前の秋のことでした。

 

メリノウール85% 冬の夜の救世主


私は、夏でも靴下を履いて寝るほどの冷え性体質。冬場ももちろん靴下を履いて寝ていたのですが、この「おやすみくつした」を履き始めてからは、秋の終わりから春までの7カ月間ほど、毎日これを履いて寝ています。3年目の今年も、すでに10月末から履き始めました。

メリノウール85%という高い混用率。メリノウール以外の15%は、ナイロンポリウレタン10%、合成ゴム・ポリエステル5%ですが、これらは伸縮性を保ったり、ゴム口のための、伸び縮みに最低限必要な分量です。いわば靴下の骨組みの素材以外は、すべてメリノウールなのです。

メリノウールだからチクチクしない。中がパイル状に編まれているからふかふかの履きごこち。ゴムは血行を妨げないゆるさで、かといって寝ているときに脱げない絶妙な塩梅。私には、冬の救世主のような存在です。

おやすみくつしたの洗い方は


この靴下を、私は2足購入して4日に1回洗濯して交互に履いています。

洗い方は、社長のお姉さん・喜洋子さんによると、「手で押し洗い」がおすすめ。洗濯機で洗うと目が詰まり、ふんわりとした風合いがなくなるからです。手洗いした後は、タオルで押して湿気をとり、平干しに。あるいは、物干し竿にかけるなら、かかと部分で2つに折って干すと形状が保たれるそう。また、洗濯バサミで吊って干したい場合は、お姉さんのこだわりでは、つま先ではなくゴム口を上にして挟むのがよいそうです。それは、ゴム口が下だと、水気がゴム糸の部分にたまってしまい、ゴム糸を弱める原因になるから、ということでした。

ただ、横着な私は、手間を省くために洗濯機のドライモードで、おしゃれ着洗い用の洗剤で洗っています。全体に少し縮んで、ちょっと硬めの風合いに変わって、見た目のふんわりした良い感じはなくなりますが、自分としては暖かさは保たれているので、毎回手洗いする手間とヨレ具合を天秤にかけて、この方法で洗っています。干すときも、ついクセでつま先をピンチで留めてしまいますが、とくに問題はないようです。

そして、社長からの伝言。「ひと冬履いていると、どうしても毛玉ができます、ウールですから」。でも、よそ行きのくつしたではないので、気にしない気にしない。「それから、かかとに強度をもたせていないので、履いてうろうろしないで、おふとんに入る時だけ履いてください」とのこと。私はおふろ上がりに履いています。保湿効果も保温効果もよいみたい。そして朝、起きたら脱ぎます。

新雪のようなふんわり感はこんな機械が編んでます


〝新雪を踏んだみたい〟と社長が目指したふんわりした質感を実現したのは、パイル編みかつローゲージという特殊な編み方。と、なると、編める機械が限られるうえ、熟練の技術が必要です。機械は最新の機種ではなく、この編み方が可能な古い機械をあえて使い、社長自らメンテナンスしながら編んでいます。

この機械、編みデータを読み込むのはなんとカセットテープ!工場ではデータの記録にカセットテープが現役で活躍しています。

 

そして、工場は自宅と隣り合わせ。工場の入口と家の玄関が通路で繋がっています。写真は工場の入口に立つ、塚本社長とお姉さんの喜洋子さん。社長は二代目で、お父さんが家と工場を建て、2人はここで育ちました。

 

働く場所と生活する家が分かれていながら、ゆるやかに連なるという広陵町ではわりと多い〝職〟と〝住〟の関係も魅力的に感じました。

オリジナルで靴下を作ってみたい人は、塚本さんまで。

「おやすみくつした」はグレイとブルーの2色


色はグレイとブルーの2色。

グレイはメンズサイズ。足サイズの目安は2527cm

ブルーはレディスサイズ。足サイズの目安は2224cm

ゴム口はゆるく、中はパイル編み。

以上、
クツシタさん(村田浩子・長岡綾子・塚村真美)より、長岡綾子がお届けしました。